映画『運び屋』の雑な感想(ネタバレあり)

原題『The Mule

あらすじとしては仕事一筋の男、アールが家族と疎遠になり、数年後仕事もうまくいかなくなり自身の農園を差し押さえられてしまう。90歳にもなり職に困り、偶然紹介された麻薬の運び屋としての仕事を経て、時間や家族の重要さに気付かされていくという感じ。実話を元に書かれてるらしい。観る前は普通の老人がギャングみたいな組織に絡まれて複雑になっていくような話(ブレイキングバッドみたいな)かと思ったけど、派手なシーンはそこまでなかったという印象。一度きりで辞めるつもりが十数回に渡る"旅"を繰り返し最後には逮捕されてしまう。序盤では稼いだ大金で退役老人クラブを立て直したり、孫の結婚パーティ資金を全額出資したりで"外"に認められていくシーンが描かれている。仕事をこなしていくうちに組織のいざこざが発生、後に引けないような状況に立たされる。その最中で妻の病気が発覚し、仕事(組織のルールが厳しくなり、勝手な真似をすると危険)と家族のどちらを選択するかを再び問われることになる。そこで家族を優先し、妻の死に際に立ち会い、仕事や外の人間に認めてもらうよりも大事なことがあるということに気づくシーンはとても良かった。と同時に、時間は有限であり、いくら大金を稼いでも買えるものではないとしみじみ感じた。結局はここが重要なポイントで、伝えたかったことなのだろうと解釈している。組織の一人と親交が深まり、アドバイスをしているシーンも印象に残っている。他には、ブツの運搬中に危うく警察犬にバレかけるが何らかのクリーム(記憶が曖昧)を手につけて匂いを嗅がせカモフラージュするシーンも面白い。ブレイキングバッドやグッドガールズを思い出させるような部分も多々あった。それとアールがクソデカいアメリカの地を車で走っていくだけで様になっているのかなり良い。あと老人が被りがちのしわくちゃになった帽子はどうしてあれほどハマるのか。

時間は限られていて金では買えないということを90の老人を通じて改めて思い知らせる映画だった。まとまりのない雑な感想というか概要みたいな感じになってしまったが…。

 

時々映画館に行って貯めていたポイントで無料クーポンを手に入れたので次は何を観ようか。

伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』を読んだ

ここ最近、シュタインズ・ゲートの二期やPSYCHO-PASSの劇場版が公開されたりとSF作品に興味を持つようになった。どちらかというと影響を強く受けたのはPSYCHO-PASSのほうで、アニメ本編を最近見たからというのもあるかもしれない。作中にはフィリップ・K・ディックジョージ・オーウェルをはじめとした作家の作品を引用したネタが多く盛り込まれている。そこからオーウェル1984を読んだり、PKD作品を買っては積んだりしていたのだが、そのつながりで伊藤計劃を読んでみようと思った。記憶力が悪いので、文として綴っておいた方が内容を覚えていられると思い、これを書くに至る。

伊藤計劃の作品は基本一人称で書かれているが、「三人称の物語は胡散臭い」という理由もあってのことらしい。個人的にかなり読みやすく、惹かれた要因としては一人称で描かれる主人公の魅力がひとつある。

はじめに、虐殺器官の感想を。主人公はアメリカの情報軍で、主に国から暗殺依頼の任務を受けて紛争地域に潜入する。基本的に潜入する国では虐殺が行われており、それを終わらせるために暗殺を行っていく。その後、後進国で頻発する虐殺の影に潜むジョン・ポールを追っていくというストーリー。虐殺の言語というものを用いて後進国で虐殺を引きおこす目的が、愛する人らを守るためという。虐殺や内戦を引き起こすことで、後進国は他国にテロを起こそうという気を持たなくなることで、テロをほとんど無くすことに成功する。この考えは単純に聞こえて倫理的にも考えさせられる。それから、この作品には主人公らが潜入に用いる、フライングシーウィードやイントルード・ポッドといったものに素材として実際の筋肉を使っている。作中には足だけ筋肉繊維を使ったロボットなども出てくる。養殖した専用の鯨を使うという現代では某団体に訴えられそうな内容も扱っていて、しかし国民はそれを気にかけてはいない。発達したテクノロジーによって物がどういった素材を使われ、どのような経路で作られてきたのかということは調べればわかるが、知りたくないことは知らない方がいいという考えの元だ。この作品は主に虐殺をテーマとしていると思っていたが、こうした環境的な問題や貧困といったテーマにも着目していて面白い。そして、主人公は今まで任務として人を殺してきたわけだが、事故で意識をなくしてしまった(意識をなくすという境界線が医療テクノロジーの発達によって曖昧になっているので、厳密にはそう言えないのかもしれない)母親の生命維持装置を外すことを決めたところで「自分の意思で母親を殺した」という罪悪感を背負っていくことになる。任務であれば、人を殺しても自分の意思ではないのか、カウンセラーによって感情モジュールを調整された自分は果たして自分の意思なのか、という葛藤が要所で描かれていて、作り込まれているなと思った。それから主人公はジョン・ポールを確保・暗殺するために各地を飛び回るのだが、結末としては主人公自身がジョン・ポールからもらった虐殺の文法のエディタにより、アメリカで大混乱を引き起こすという。虐殺を止めるために動いていた主人公がジョン・ポールの考えや自身の罪について考えていくうちにそれに至ったという納得できる結末で読み応えがあった。

次に、ハーモニーの感想を。この作品は読んでいるうちに虐殺器官のその後の世界であるということに気づいた。虐殺の文法によって"ザ・メイルストロム"という各地に核が落とされて地獄のような世界が発生した後の世界。核によって人々は病気になり、病気というものそのものを無くすという社会に入っていく。WatchMeと呼ばれる機能を体内にインストールすることで、恒常的な身体の変化を常に測定し、病気というものを無くすことに成功した。人は社会的リソースと考えられ、丁寧に扱われていく。健康に害のあるもの(酒やタバコ、カフェインまで)が禁止、制限されている中、主人公はそれを手に入れることのできる職業に就き、紛争地域に出張っているというのが面白い。生命主義と反社会の狭間にいるような気がした。この作品はあとがきにもあるように、ユートピアとしても考えられるしディストピアであるとも言えると感じた。作品の中で意識について語られる部分が多く、身体の機能をほとんど管理させているのに、意識を管理するのはいけないというのはおかしいみたいなことが出てきて考えさせられた。意識を管理することでハーモニーを確立し、争いのない社会を作り出すという考えもまた面白い。意識を管理されるということは、わたしがわたしでなくなるのではないかといった考えと意識は人間に必要のなくなった機能という考えの対立もとても読み応えがあった。それと伊藤計劃がエモーショナルに文章を伝えるためにはどうしたらいいか、という思考から主人公を女性にしたといっていてすごいと思った。確かに読んでいて感情が垣間見えやすいといった気がした。

二作品の共通点として主人公にとても魅力があるなと思った。まだまだ理解できていない部分や気になった部分も掘り下げていきたい。全くまとまってない文章だが、自身の記録と考えているので、読んでいる方がいたらその辺はご了承いただけたらなと思う。